スポーツ外傷で一番多いのが捻挫です。『足首を捻挫すると、骨折よりも始末が悪い(Watoson-Jones,1940)』といわれています。足は体重が最も掛かる部位なので傷の回復が遅くなり、また選手は捻挫は骨折よりも治りが良いと考えがちなので、十分な処置をせずに放置してしまうからです。放置した場合、何度も捻挫を繰り返したり、痛みや不安感からプレーに専念することができなくなります。捻挫を起こしたときは、適切な処置と治療を迅速に行なうことが大切です。それは早期に競技へ復帰することにつながります。そこで今回は捻挫に関する正しい知識と処置方法をご紹介します。

受傷後すぐにRICE処置を行う

スポーツの現場でケガをしたとき、損傷部位の障害を最小限に抑えるために行う方法を「RICE(ライス)処置」といいます。応急処置の基本であるRest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字をとったもので、打撲や捻挫など、スポーツでよく起こるケガの多くに対応できる応急処置です。この処置は早期にスポーツに復帰するためには欠かせないものです。ケガの患部には疼痛や腫脹、熱感といった炎症反応が現れますが、RICE処置はこれらの炎症を早期に治めることで回復の時間を短縮することができるのです。            処置が早いほどケガの回復は早くなるので、このRICE処置はとても有効な応急処置法といえます。処置が遅れると出血や腫れを抑えることに時間が取られるばかりか、患部が固くなってしまいます。拘縮(こうしゅく)といいますが、それが残ると競技や日常への復帰をさらに遅らせてしまいます。捻挫をしたらすぐにRICE処置行いましょう。それが一番初めにすべきことです。

安静・固定期間は最小で

長期間固定や安静にしておくと、拘縮(こうしゅく)という状態を引き起こします。拘縮とは、一般的には病気やケガで長期間身体を動かしていない状態が続くことで、関節が硬くなり動きが悪くなる状態のことを指します。専門的には、軟部組織(血管や筋組織、神経組織など)が変化し、可動域制限を起こした状態のことをいいます。

関節周辺の筋肉や靭帯が伸縮性を失っているため、無理に動かそうとすると痛みを感じる場合もあります。損傷は治っても拘縮が残ったために、プレーに支障が出たり、その除去に時間がかかり復帰が遅くなってしまうことがよくあります。捻挫を早く治すには拘縮をいかに防ぐかにあるのです。

安静固定は最短にとどめて、関節の運動を始めていきましょう。それが拘縮防止のいちばん効果的な方法です

ポイント

患部が治癒しているのに、拘縮が残ったためプレーに支障をきたしているケースが多くみられます。拘縮をいかに抑えるかが大切になってきます。

健康の基本条件を満たす

健康の基本条件とは、空気・水・ミネラル・ビタミンの4つのことです。細胞が活発に働くための非常に大切な条件です。この4つが十分に満たされると、体内を元の状態に戻し安定させようとするホメオスタシス(恒常性)のメカニズムが正常に働き、損傷箇所を早く修復してくれるのです。この4つは体内では産生できないので、積極的に摂取するようにしましょう。

空気細胞の一番大切なエネルギーが酸素です。
酸素摂取量を増やすために、呼吸法を行いましょう。
体の疲労物質は尿として排出されます。
良い水(分子が細かい水)をたくさん摂取し、トイレに行く回数を増やしましょう。
ミネラルカルシウムは骨の材料です。
水によく溶けるL型乳酸カルシウムを摂取しましょう。
ビタミン傷の修復時に消費されます。普段の手作りの食事を食べていれば問題ありませんが、
総合ビタミン剤などでさらに補いましょう。
健康の基本条件

ポイント

この4つは聞きなれたものばかりで「本当にこんなことでよくなるの?」と思うかもしれません。しかし健康になるための最低限の必要条件です。しっかり摂取して細胞を元気にしましょう。

痛みが出ない範囲で動かす

捻挫をしたら「受傷後2~3週間は絶対安静に」という通説があります。傷は動かさないほうがよいと考えられているからです。確かに安静にしていれば、治癒力で自然に治っていくことは間違いありません。しかし、早く治したいときはそれでは不十分です。なぜなら長期間安静にすると筋細胞内のミトコンドリアが産生するATP(アデノシン三リン酸)が減少し、エネルギー不足になるからです。例えば寝たきりになると体は加速的に衰えます。それはATP合成が減少するからです。少しずつでも動かしてATP合成を高める必要があります。そのために、RICE処置で腫れと痛みを取りながら、早期に少しずつ動かしていきましょう。

「痛みが出ない範囲で動かす」ことです。痛みを感じると筋肉は緊張してしまい、体は制限をかけてしまいます。初めは少ししか動かないかもしれせんが、繰り返し続けると痛みなく可動域が次第に増え、腫れも減少していきます。動かし方にはコツが必要なので当院にご相談下さい。

ポイント

早く結果を出したいからと焦ってはいけません。「痛みが出ない範囲で動かす」をコツコツと続けましょう。

呼吸法で自律神経を整える

自律神経とは自分の意思とは関係なく刺激や情報に反応して体の機能をコントロールしている神経のことです。例えば心臓の鼓動や瞬き、発汗、消化、呼吸などは無意識に行ってくれます。傷の修復も同様です。転んで擦り傷ができてもいつのまにか治っています。このように、自律神経は私たちが生命を保てるように、これらの動きを調整する役割を担っているのです。

自律神経は交感神経と副交感神経に分けられます。このふたつがバランス良く機能すると、役割を分担して自動的に調整してくれますが、乱れるとスムーズに進まなくなります。細胞が効率よく傷の修復を行うためには、自律神経のバランスを整えることが欠かせないのです。

自律神経は自分で意識して動かすことはできませんが、唯一呼吸を通してコントロールすることができます。自律神経を整えるには呼吸法が最適です。呼吸法は当院で指導しております。

ポイント

生命は自ら元に戻ろうとする力を持っています。その力が発揮できるように命令を出すのが自律神経なのです。

収支を黒字にする

企業や家庭のように体にもエネルギーの収支バランスがあります。出費が多くて赤字状態なら、患部へ廻されるエネルギーが減るので修復に時間がかかります。家計が赤字で家の修繕にお金が廻せないことと同じです。収入が多くて黒字状態なら患部にも豊富にエネルギーが供給されるので早く治ります。貯金がたくさんあればすぐに修理できるのと同じです。

安静とは出費を減らすだけになってしまいます。収入は増えないので時間はかかります。健康状態を改善して収入を増やすように積極的に取り組むことが治癒への近道です。

日々の生活リズムを変えて、支出を減らし収入を増やし、早く黒字を作りましょう。練習や勉強で忙しすぎるときは、スケジュールを見直しましょう。どうしてもトレーニングしなければならないときは、激しいトレーニングは避けるべきです。たとえ患部以外のトレーニングでも、体力を消費すると損傷部位に廻されるエネルギーが少なくなるからです。ここでお伝えしていることは、この収入を増やす側のことが載っています。健康の基本条件を揃え、睡眠、休息、栄養を十分に摂り、積極的に収入を増やしましょう。

ポイント

エネルギーの出入りは森羅万象の本質です。体も家庭も、企業も国家も、このメカニズムで成り立っているのです。そのバランスを整えることが早く治すポイントなのです。

良いイメージを湧かせる

メンタルトレーニングで競技力アップを目指す技法に『イメージトレーニング』というものがあります。例えば選手に競技しているイメージをしてもらい、筋肉を筋電位計で測定すると、実際にプレーを行っているときと同じ順番で筋肉に電気信号が流れることが研究で分かっています。つまり椅子に座っていても、イメージしたとおりの情報が全身の細胞に送られ、あなたのイメージの影響を与えることができるのです。

 治って全力でプレーしているイメージを湧かし続けましょう。また、より細かなイメージはその効果を高めてくれます。「べストのプレーをしている」「試合で大活躍している」「試合会場の雰囲気」など、より詳細に湧かせましょう。練習ができなくても細胞はその情報を受け取り記憶しているのです。時間があるときや就寝時など、繰り返しイメージし続けましょう。また、「楽しい、ワクワクする」といった気持ちは、体のエネルギーや集中力を高め、能力を発揮させます。このようなポジティブな気持ちで毎日を過ごすことも大切です。

ポイント

身心一如(しんじんいちにょ)という言葉があるように、体は脳がイメージしたとおりに変化します。「自分はできる!」と強い心を持って取り組んで下さいね。

周囲の協力と優先順位

早く治すためには、本人の努力だけでなく、親御さんの協力、顧問の先生のご理解、医療機関の支援など、周囲のサポートがあるとスムーズに進みます。そのとき皆さんの方針が一致していることが望ましいです。たとえば学生は勉強、練習、塾などがあるでしょう。そのとき何を優先させるかです。体を最優先に置くと通院やセルフケアに時間をかけるべきです。ほかに優先順位を高く置くとそれにエネルギーを奪われてしまい、治癒が遅れてしまいます。

 何が大切なのかはその時の状況により変わります。学生最後の大会が控えていて絶対に出場したいときは、治すことが最優先となるかもしれません。しかし、選手の将来のことを考えたとき、今無理して試合に出るのはどうなのか、という意見も出ることでしょう。

大事なことは、本人、親御さん、顧問の先生、医療機関と意見を交換し、何を優先させるのか皆さんの方針を一致させておくことです。方針が同じほうが早く目標に到達できるのです。全員が一致することが望ましいですが、難しいときは本人と親御さんだけでも一致させましょう。そして、決めたら本気で取り組みましょう。

ポイント

皆がバラバラな考え方で行動したら、それぞれの人の力の方向(ベクトル)が揃わず力は分散してしまい、全体としての力とはなりません。 全員の力が同じ方向に結集したとき、何倍もの力となって驚くような成果を生み出すのです。