すべて相似象

人間の体は約60兆個の細胞の集合体です。その構造は人が集まった街や国と酷似しています。食物や製品を生産するメーカがあります。加工精製会社があります。ゴミ収集車や清掃工場もあります。消費者や会社員がいます。総理大臣や社長、教師もいます。侵入した敵に対抗する軍隊もいます。有線無線の通信ネットワークもあります。道路渋滞や公害もあれば、ストライキもたまに起こります。もっと小さいレベルの組織や細胞も同じです。全体は部分の組み合わせで成り立ち、部分の中にも同じ全体が組み込まれています。世界が全て相似象であることが分かります。体は私たちが住んでいる社会の縮図なのです。

細胞たちの仕事は所属している組織によりそれぞれ異なりますが、「生命維持」という共通した強い使命を持っています。彼らは私たちがどんなに体を酷使しても24時間休むことなく黙々と働いています。誰ひとりとして身勝手な行動をとったり、お互いを非難することはありません。生命のために自分がすべき役割をただ全うしています。だからこそ私たちは普段通りの生活を送ることができるのです。体と社会は相似象という事実を知っておいて下さい。それは現在の混乱した社会での在り方と関わってくるのです。

細胞の声

現在新型コロナウイルス感染拡大防止の対応の遅さや企業や国民に対する補償の薄さで 政府は随分非難されています。国民の切実なる声を国が放置しているからです。体の細胞も言葉は喋りませんが症状として様々な訴えをします。「お腹が空いた」「トイレに行きたい」「喉が渇いた」と感じたときは、「ご飯が欲しい」「トイレに行きたい」「水分が足りない」と細胞が脳に要求しているのです。私は”細胞の声”と呼んでいます。その声に従って行動すれば問題は起こりません。しかし無視して我慢させていると、その声(=症状)は大きくなり最終的には細胞のストライキで体は倒れます。

現在の社会の状態を体で例えると、疲労困憊で休みたい細胞の声を無視し、脳が「仕事だから」「レギュラーを外されるから」休むな、まだ大丈夫だから頑張れと体に鞭打っているのとなんら変わりはありません。そして異常な症状が現れたり、痛みでプレーできなくなったとき、やっと休むのです。全国に緊急事態宣言が出ましたが、国もこのままではまずいとようやく気づいたのです。

問題が発生した時どうすればよいかは最前線、現場が一番良く分かっています。それは体では細胞であり社会では国民や従業員なのです。脳や国がその声にいち早く気づき、賢明で素早い判断を下すことが迅速な問題解決につながるのです。細胞の集合体が組織となり体となる。人が集まり市町村、県となり国、国連となる。全ては相似象。日本には欧米のような、強力なリーダーシップを発揮できる人材が少ない」ということが今回の非常事態で再認識されましたが、それはすなわち私たち自身の問題でもあるわけです。体内も社会も全ては同じなのです。

優先順位

仕事において優先順位をつけることは大切です。適切に優先順位をつけて行動することで効率良く処理できるだけでなく、限られた資源(人・物・資金・時間)でより多くの仕事をすることが出来るからです。それは全ての物事においても同様です。家計では、家賃や食費には優先して収入を配分します。その後に車の維持費や衣服に廻すでしょう。余裕があれば外食や旅行も楽しむことが出来ます。優先順位を間違えると家計は崩壊し生活を維持できなくなります。

体内にも優先順位があります。例えば血液の約5%は、安静時には肝臓や消化管、腎臓に多く配分されます。活動時には肝臓や消化管は削減され、心臓や筋肉に多く廻ります。風邪の際は免疫細胞の活性化に優先してエネルギーが配分され、それ以外は削減されます。食欲がなくなるのはそのためです。脳の重量は体重の約2%に過ぎませんが、血液の約15%が流入し、酸素消費量の約20%が脳で消費されます。体の最重要の司令塔だからです。このように必要な所に必要な量を優先して分配するシステムがあるのです。

以前の新型コロナウイルス感染拡大防止のために、経済活動が縮小され家電メーカーがマスクを、日用品メーカーが消毒液を生産しました。医療に優先的に資源が投入されている様子は体内活動とまさしく同じなのです。大切なことは、体は緊急時でも器官を維持するための最低限度の血液が供給されています。器官が絶えることのないよう、供給がゼロになることはないのです。休業補償が必須なのはそのためです。

体内には経済界の忖度や駆け引き、パチンコに並ぶ長蛇の列はありません。「生命の維持」を優先した一致団結した素早い行動があるのみです。優先すべきことに資源を集中させる、当たり前のことですが、早期に問題を解決するために大切なことなのです。