『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと(ダイヤモンド社)』のご紹介です。著者のちきりん女史は20年前に購入したマンションに暮らす、元コンサルタントの文筆家です。あるとき著者はマンションの部屋のリノベーションを行います。本書はそのときの体験と思考をまとめたもので、リノベの予定がない人にもわかりやすいビジネス書と評判になりました。その中でなるほどと感じた概念がありましたので、みなさまにご紹介いたします。
取引には2種類ある
著者は、お金を介した取引には2種類あり、「等価値交換」と「共同プロジェクト」に分けています。500円のお金と500円のお弁当を交換するような日常の買い物は等価値交換です。売り手と買い手が価値を交換して終了します。一方、共同プロジェクトとは、共通の目標に向かって共に努力して価値を生み出すものです。例えば英会話教室で、お客が「英検1級の英語力をください」と言ったら、学校側が「20万円になります」と言って英語力を与えてくれるわけではありません。受講生(買い手)は学校側の講師 (売り手)と “共に努力する”ことで初めて「受講生の英語力が身につく」という価値が生まれます。
共同プロジェクトのものを等価値交換のように誤解すると、物事は上手くいきません。お互いの”協力”が必要だからです。だから、ビジネスにおける「等価値交換」と「共同プロジェクト」という2つの種類を理解していない人、または世の中の取引が全て等価値交換だと思っている人は、スポーツジムや英会話学校で「高い会費を支払ったのに全く痩せなかった(話せるようにならなかった)」と文句を言ったりします。この『等価値交換』と『共同プロジェクト』の概念を理解し、日常での買い物や仕事の金銭の取引で、どちらに該当するのか意識することが非常に大切です。
患者さまの努力
医療は共同プロジェクトにあたります。患者さんが「健康をください」と言い、医者が「3万円になります」と健康を渡すような「等価値交換」型の取引ではありません。医者と患者さまが「患者さまの健康」という共通の目標に向かって”共に努力して”価値を生み出します。その価値を医者はやりがい、収入、名声、経験として、患者さんは自分の健康として分け合う「共同プロジェクト」です。処方された薬を飲まない、食事制限を守らない、あるいは手術後に指定されたリハビリを行わない。もし患者さんがこうした態度をとれば、いくら大金を払っても健康が取り戻せないのは当たり前でしょう。お金をドブに捨てることになってしまいます。「共同プロジェクト」に顧客として参加するのなら、自分で努力(協力)しないと価値は生まれないのです。
医療側の責任
日本は「ものづくり大国」と呼ばれるほどメーカーが多い国です。メーカーは常に「完璧な製品」を顧客に提供しますが、買い手側の協力は必要ありません。客が提供すべきなのはお金だけなのです。等価値交換の仕事に携わったり、その顧客となることが多いと、共同プロジェクト型の取引についての理解がとても難しい。だから「金を払ったのに、上手くいかない(=どこへ行っても治らない)」と考える人が多いのです。これは客側の問題ばかりではありません。「お金を払ったから、完璧な医療を提供するべき」と無言のプレッシャーをかけてくる患者さまに対し、「医療は商品ではありません。力を合わせて共同して目標を実現していきましょう」と説明できているでしょうか?救急医療や外科手術は医療側の責務が大きくなりますが、それ以外は共同プロジェクトになりことを医療側も理解し、患者さまに説明しているかどうかです。取引が共同プロジェクトであれば、顧客にも協力してもらうために、十分に説明することが大切です。それだけで食い違いが無くなり、買い手も売り手も大きな価値を受け取ることができるのです。まさに理想の取引でなないでしょうか。
協力者を増やす
医療に完璧な製造過程はありません。不確実性に満ちています。本人の体質や日常生活、食生活、病歴、概念の違いなど、千差万別です。また学生さんなら、ご家庭や部活の指導者なども考慮しなければなりません。やってみないと分からない部分はあるのです。医師が伝える全治○○日とは、統計の平均値でしかありません。しかし、医療側や患者様、ご家庭の協力があるほど早く良い結果が出ます。まさに「医療側と患者側の共同プロジェクト」なのです。「当院に来院したから早く競技に復帰できた!」という声は嬉しいですが、施術だけで治ったわけではありません。そこには本人の努力はもちろん、親御さんや顧問の先生のご協力があってこその結果です。協力者は多いほどプロジェクトの成功は早くなります。未成年者の初診時は親御さんの付き添いをお願いしているのは、ご協力をお願いするためです。また、休日に学校を訪問し、顧問とコミュニケーションを取るもの協力者を増やすためです。医療は”共同”プロジェクトですから。
等価値交換と共同プロジェクト、言われてみると大変納得なのですが、このように言語化されるまで、私もそのように経済取引を分類できていませんでした。医師と患者の考えがすれ違う原因って案外こういう根本的な考え方の違いもあるのかもしれませんね。